過敏性腸症候群とは
過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome) は、腸に器質的異常がないにもかかわらず、腹痛や腹部膨満感、便秘や下痢 などの便通異常が慢性的に続く疾患である。ストレスによる腸蠕動の異常や、痛みを感じやすい知覚過敏が特徴である。
有病率は一般人口の10〜15%と推定され、特に若年成人や女性に多い。ストレス、睡眠障害、精神疾患(不安・うつ) などが発症リスクを高めるとされ、夜勤・交代制勤務者での発生率も高いと報告されている。
診断基準
診断にはRome IV基準が用いられる。
- 最近3か月の間に週1日以上の腹痛があり、以下の2つ以上を満たす
- 排便に関連する
- 排便頻度の変化を伴う
- 便の形状が変化する
また、症状が診断の6か月以上前から続いている必要がある。
便の形状(Bristolスケール)による分類
- 便秘型(IBS-C) … 硬便が主体
- 下痢型(IBS-D) … 軟便・水様便が主体
- 混合型(IBS-M) … 硬便と軟便が交互に出現
- 分類不能型(IBS-U) … 上記に当てはまらない
診断には、器質的疾患(大腸がん、炎症性腸疾患、感染症など)の除外が重要であり、血液検査や大腸内視鏡検査が必要となる場合もある。
原因
IBSの原因は明確ではないが、脳と腸の相互作用異常(脳腸相関の異常) が関与していると考えられる。
- ストレス → 自律神経の異常 により腸の運動が過剰または低下
- 腸の知覚過敏 → 健常者よりも軽い刺激で痛みを感じやすい
- 腸内細菌の変化 → 感染性腸炎後にIBSを発症するケースがある
- 食事の影響 → 高脂肪食や特定の炭水化物(FODMAP)が症状を悪化
治療
1. 生活習慣の改善(第一選択)
- 規則正しい食事(暴飲暴食を避ける)
- ストレス管理(リラックス法、適度な運動)
- 睡眠の確保
特に、FODMAP(発酵しやすい炭水化物)を避ける食事療法が注目されている。
2. 薬物療法
症状に応じて以下を使用。
- 消化管運動調節薬(腸の運動を整える)
- プロバイオティクス(ビフィズス菌・乳酸菌など)
- 下痢型:セロトニン3受容体拮抗薬、止痢薬
- 便秘型:腸の水分調整薬、下剤
- 腹痛:抗コリン薬、抗うつ薬(低用量で使用)
3. 心理療法
ストレスが関与するため、以下の療法が有効な場合がある。
- ストレスマネジメント
- 認知行動療法(CBT)
- マインドフルネス療法
- 催眠療法
予後と経過
加齢に伴い症状は軽快する傾向がある。便通異常のタイプが変化することもあり、長期的には自然寛解するケースも多い。
ただし、機能性ディスペプシアや胃食道逆流症(GERD) を合併することがあるため注意が必要です。