機能性ディスペプシアとは
ディスペプシアは上腹部の症状を指す言葉であり、機能性ディスペプシア（functional dyspepsia：FD）は「機能の異常」によって「上腹部の症状」を引き起こす疾患です。
「胃が痛い」「胃がもたれる」などのディスペプシア症状を訴えて受診される患者様は多くいらっしゃいます。しかし、胃カメラ検査などを行っても、胃がんや胃潰瘍といった明確な病気が見つからない場合があります。こうしたケースでは、胃の消化作用や収縮運動、さらには感覚異常など、胃の機能低下が症状の原因ではないかと考えられ、「機能性ディスペプシア」と診断されます。
FDは、「症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないにもかかわらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの上腹部症状を呈する疾患」と定義されています。
FDの患者数は？
健康診断受診者のうち11～17％、上腹部症状で病院を受診した人の45～53％にFDが見つかるといわれています。つまり、FDは一般的な疾患の一つです。
FDの患者様は、症状によって日常生活の質（QOL）が低下します。しかし、適切な治療を受けることで症状が改善し、QOLの向上が期待できます。症状が強い場合は、我慢せずに当院へご相談ください。
FDの原因
1. 胃・十二指腸の運動障害
- 胃排出の異常：食べた物を胃から十二指腸へ送る過程に異常があると、症状が発生します。
- 胃適応性弛緩の異常：食事時に胃が適切に拡張できず、食べ物を十分に貯留できないと、早期飽満感（少量の食事で満腹感を感じる）を引き起こします。
2. 胃・十二指腸の知覚過敏 ：FDの患者様は、胃のわずかな伸展刺激や温度刺激に対して、健常者よりも過敏に反応します。また、十二指腸において胃酸や脂肪に対する感受性が高まることで症状が生じることもあります。
3. 心理的要因や生育環境 ：脳と腸は密接に関連しており（脳腸相関）、不安や抑うつ、幼少期の被虐待歴が胃や腸の運動や感覚に影響を与えることがあります。
4. 胃酸の影響 ：胃酸が過剰に分泌されることで、胃や十二指腸の粘膜が刺激を受け、運動機能や知覚に影響を与える場合があります。
5. 遺伝的要因： FDになりやすい体質が遺伝する可能性があります。
6. 感染性胃腸炎の既往歴 ：サルモネラ感染などの急性感染性胃腸炎の回復後に、FDのような症状が持続することがあります。
7. 生活習慣の影響： 喫煙、不眠、食生活の乱れ（嗜好品の摂取、早食いなど）がFDの発症要因となることがあります。生活習慣を見直すことで、症状が改善するケースもあります。
8. 消化管の微小な炎症 ：特に十二指腸に炎症細胞が集まり、バリア機能が障害されることで症状が生じることがあります。
FDの診断・検査
FDは、「腹部症状が慢性的に続いているにもかかわらず、症状の原因となる異常が見つからない病気」です。診断は、以下のような情報を総合的に判断して行います。
- 症状の種類（胃痛、胃もたれ、腹部膨満感など）
- 症状の持続期間
- 食事との関連性
- 体重減少の有無
- 既往歴や過去の検査結果
嘔吐の頻発、発熱、体重減少が見られる場合、または治療を開始しても症状が軽快しない場合は、胃がんや胃潰瘍などの疾患を除外するために、
- 胃内視鏡検査（胃カメラ）
- ピロリ菌検査
- 血液検査、超音波検査
などを行います。
FDの治療と注意点
1. 生活習慣の改善 FDの症状改善には、生活習慣の見直しが重要です。
- 規則正しい食事を心がける
- 少量ずつ、ゆっくり食べる
- 高脂肪食を控える
- アルコールやカフェインの摂取を控える
- 禁煙を心がける
- 睡眠を十分にとる
2. 薬物療法 FDの治療薬には、以下のものがあります。
- 胃酸分泌を抑える薬（プロトンポンプ阻害薬、ヒスタミンH2受容体拮抗薬）
- 胃の動きを良くする薬（アコチアミド）
- 漢方薬（六君子湯）
これらの薬が効果を示さない場合は、
- 抗不安薬・抗うつ薬
- その他の胃運動促進薬
- 別の漢方薬
を使用することもあります。
3. ピロリ菌の除菌 ピロリ菌感染が確認された場合は、除菌治療を行うことで症状の改善が期待できます。
4. 心理的サポート 心理的要因が関与している場合、心療内科での心理療法やカウンセリングが有効です。
FDの治療には時間がかかることがあります。まずは症状が少しでも軽減されることを目標に、継続的に治療を受けることが大切です。当院へご相談下さい。自分に合った治療法を見つけましょう。
